異なるサイズのボウルを挽く。そんなとき、ほぞの径は1つずつ違います。生木であれば動きますし、挽いたほぞが全て同じ寸法になることもありません。
そのたびにチャックを開閉して調整する。あるいはジョーを交換する。この手間が、量をこなす作業では地味に効いてきます。
Vicmarc「ステップジョー」は、この問題への答えです。3段のステップ形状により、ジョーを交換することなく、直径42.5mmから123.7mmまでを切れ目なくカバーします。
設計したのは、オーストラリアを代表するウッドターナーであり著述家でもある Richard Raffan(リチャード・ラファン)氏です。
特徴
1. Richard Raffan によるデザイン
Richard Raffan の名前は、世界の木工旋盤界で知らない人がいないと言っていい存在です。長年にわたりプロとして作品を作り続ける一方、数々の旋盤技術の教本を執筆し、それらは各国で標準的な教科書として読み継がれてきました。
このステップジョーは、その Raffan 氏が自らの制作現場での必要性から設計したものです。実際に数をこなすターナーが「これが欲しい」と考えた形である——これがこのジョーの価値を物語っています。
2. 42.5mm〜123.7mm を、切れ目なく
クランプ(ほぞを掴む)モードでは3つの段が使えます。それぞれの可動域は次のとおりです。
| モード | 段 | 可動域(直径) |
|---|---|---|
| クランプ (ほぞを掴む) |
第1段 | 42.5 〜 84.5mm |
| 第2段 | 67.6 〜 109.6mm | |
| 第3段 | 81.5 〜 123.7mm | |
| エキスパンション (リセスに拡張) |
— | 96 〜 138mm |
注目していただきたいのは、3段の可動域が意図的に重なっていることです。第1段の上限84.5mmに対して第2段は67.6mmから始まり、第2段の上限109.6mmに対して第3段は81.5mmから始まる。
この重複により、42.5mmから123.7mmまでの間に「どの段でも掴めない径」が一切生まれません。ほぞをいくつで挽いても、必ずどこかの段が受け止めます。ステップジョーが単なる多段階あるジョーではなく、設計された道具である理由がここにあります。
なお各段の可動域はいずれも42mm。加工の一貫性がそのまま数字に表れています。
3. ジョーの開閉を最小限に。だから保持力が落ちない
スクロールチャックのジョーは、4枚が完全な真円を描く位置で最も強く噛みます。そこから大きく開いたり閉じたりするほど、接触は円から4点へと近づき、保持力は落ち、跡も残りやすくなります。
ステップジョーなら、目標のほぞ径に近い段を選ぶことで、その段が真円に近い状態で噛める。チャックを大きく動かさずに済むぶん、どの径でも良好な接触が得られます。段の重複は、この「最適な段を選べる」という点でも効いてきます。
4. 複数のボウルを連続して荒挽きする作業に
Vicmarc がこのジョーの用途として第一に挙げているのが、まさにこれです。さまざまなサイズのボウルを何個もまとめて荒挽きするとき、1つ1つのほぞ径のばらつきを、ジョー交換もチャックの大幅な調整もなしに吸収できます。
生木をまとめて荒挽きして乾燥させ、後日仕上げる——という進め方をされている方にとっては、作業のリズムが変わる道具です。
5. 小物・箱物にも
第1段は42.5mmから対応するため、小径のほぞを扱う箱物の制作にも向いています。蓋と身で径が違う、試作のたびに寸法が変わる——といった場面で、その都度ジョーを替える必要がありません。
6. 一体削り出しからの4分割、マッチドセット出荷
Vicmarc のジョーは、一体の状態で削り出したうえで4つに切り分け、1〜4の連番を刻印して出荷されます。組み合わせが固定されたマッチドセットであるため、組み付けたときに真円が出る。多段構造のステップジョーでは、この加工精度がすべての段に効いてきます。
こんな方に
- ボウルをまとめて荒挽きする方
- ほぞ径をその都度きっちり揃えるより、作業のテンポを優先したい方
- 箱物など、径の異なる小物を数多く手がける方
- ジョーの付け替え作業を減らしたい方
ご使用にあたって
- 段の可動域の中央付近を狙ってください。 各段とも真円に近い位置で最も強く噛みます。上限・下限ぎりぎりではなく、余裕のある段を選ぶのが確実です
- ダブテール角にご注意ください。 ステップジョーのダブテール角は、標準ジョーやダブテールジョーとは異なります。既存のほぞ形状をそのまま流用せず、このジョー用に角度を合わせてください
- ジョーは奥まで確実に。 取り付け時はスライド溝の奥まで正しく座らせ、ボルトを規定通り締め込んでください
Vicmarc について
オーストラリア・クイーンズランドを拠点に、1984年から木工旋盤とアクセサリーを製造してきた家族経営のメーカー。素材の選定から最新のCNC加工機による高精度加工まで一貫して自社で行い、世界中のプロターナーに支持されています。
Richard Raffan 氏をはじめとする第一線のターナーたちが設計に関わり、その声が製品として形になってきたことも、Vicmarc というブランドの厚みを支えています。
ツバキラボ代表の和田は、オーストラリア・ブリスベンにある Vicmarc の工場を実際に訪問しました。そこで見たのは、古き良き機械と最新鋭の機械の両方を使いこなしながら、常により良いものづくりを目指す会社の姿でした。
クラフトマンシップを受け継ぐVicmarcのものづくりについてはこちらの記事をぜひご覧ください。

製品仕様
- 品番:V00658
- 対応チャック:Vicmarc VM90 / VM100
- クランプ(ほぞ保持):42.5〜84.5mm / 67.6〜109.6mm / 81.5〜123.7mm の3段
- エキスパンション(リセス保持):96〜138mm
- 各段の可動域:42mm
- 構成:ジョー4枚1組(連番刻印付きマッチドセット)、取付ボルト付属
- 設計:Richard Raffan
- 製造:オーストラリア